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 やってしまった。またしても日本のアニメーションは未踏の領域に踏み入ってしまった。
これほどパワフルで、これほど実験的で、これほど面白く、これほど思索的で、これほど美的で、これほど下品で、これほど音楽的で……まさしく本作は、これからのアニメ界においてメルクマールとなるべき超弩級の作品であるとまず絶賛したい。ただ筆者はマンガにとても疎く、ロビン西もその画風もまったく知らない。この原稿を書くにあたってかなり探したが時間切れだ。いずれ再刊されるだろうが、これはそんな人間が映画作品をのみ観ての一文であると納得されたし。
 それにしても本作は、“西クン”の台詞そのままを敢行してしまったような映画である。「なによりも力強く、まっすぐと、のびのびと、楽しく、活き活きと、すべての力でやってみるぅー!」「僕、思たとおりにやるんです。誰にも邪魔されず、感じたままに、自分の欲望のおもむくがままに、どんな法もかいくぐって!」……とにかくここまで徹底的にムチャクチャをやり通して、しかも感動の涙を溢れさせる映画なんてそうそうあるもんじゃない。
  湯浅政明の描線はシンプルで記号的だ。しかしそれは運動のダイナミズムをストレートに投影させるもので、 ・・・→ 右上へ続く
この大胆なデフォルメこそが『クレヨンしんちゃん』映画版をあそこまで魅力的なものに育ててきたといって構わないだろう。とりわけ『ヘンダーランドの大冒険』('96 )の狂おしいばかりに奇抜でトリッキーなデザインの連続。『暗黒タマタマ大追跡』('97 )後半で怒濤のように展開する奔放自在かつ流麗な純粋視覚的アクション。本作では全編にわたって炸裂しまくる縦横無尽のアニメートであるが、そのエッセンスはすでに10 年近く前から日本中のファミリー&映画ファンを侵食してきたのだ。
 しかも『クレしん』や『カスミン』のセットデザインがそうであるように、あっけらかんと形而下的なのがいい。下品で下世話、あまりにも日常的なディテイルの数々。本作では露骨な表現や言葉だって恐れちゃいないし、どうもそれこそがテーマのひとつなのではないかとまで思わせる。第一次欲求に対して正直になることが、肉体と精神の解放にまず必要なのだ、と。
 そこに僕は、'60 〜'70 年代的な理想をどうしても見てしまう。それはいっけん能天気なまでにポジティヴであるが、すぐ下層には深い絶望が透けてみえる、いわば希望論的世界観。そんなやるせなさ、せつなさが本作には感じられないか。「人類の進歩と調和」とは'70 年大阪万博のテーマであったが、そうした空疎な言葉の目指すものの最も幸福なかたちを本作に見るのだ。


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